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住宅ローンの巻き戻しとは?

  • 文責:所長 弁護士 山森一男
  • 最終更新日:2025年1月7日

個人再生の手続においては、「住宅資金特別条項」という特別な制度が設けられています。

住宅ローンが残っている自宅を所有している方が債務整理をする際のネックが、担保にとられている自宅を競売などにかけられ失ってしまうかもしれないという点です。

しかし、個人再生の住宅資金特別条項を利用することによって、自宅を処分することなく借金の整理をすることが可能になります。

仮に住宅ローンを滞納して保証会社から代位弁済がなされた場合にも、住宅ローンの「巻戻し」の制度を利用することによって、住宅資金特別条項を利用することができる場合があります。

今回は、住宅ローンの保証会社から代位弁済がなされた場合の住宅ローンの巻戻し制度について解説します。

1 個人再生の住宅資金特別条項の概要

⑴ 住宅資金特別条項(住宅ローン特則)とは

住宅資金特別条項は、正式には「住宅資金貸付債権に関する特則」と呼ばれる制度であり、「住宅ローン特則」などとも呼ばれることがあります。

個人再生は、借金の総額を大幅に減額し、原則3年(最長5年)で分割返済していく制度です。

住宅資金特別条項を利用する場合、住宅ローンなどの住宅資金貸付債権については減額の対象にはならず、他の借金とは区別して支払いを継続することになるので、自宅を処分することなく維持することができます。

自宅を残すことによって、債務者自身の経済的な更生や自立を目指すことができるメリットがあることから、住宅ローン以外の借金を抱える方が自宅を維持しながら借金の整理をする方法として、この住宅資金特別条項が利用されます。

⑵ 住宅資金特別条項を利用するための要件

住宅資金特別条項を利用するためには、主に以下の要件を満たす必要があります。

① 住宅資金貸付債権が存在すること

住宅資金特別条項の対象になるのは、「住宅資金貸付債権」です。

住宅資金貸付債権とは、住宅の建設、購入、改良に必要となる資金のうち分割払いの定めがあり、住宅に抵当権が設定された債権のことをいいます。住宅資金貸付債権の代表的なものが住宅ローンです。

② 再生債務者が所有している居住用の住宅であること

再生債務者が所有している居住用の住宅であることが必要です。

現に居住していることまでは必要ではありませんので、単身赴任で一時的に居住していないような場合でも住宅資金特別条項を利用することができます。

③ 住宅ローン以外の債権のための抵当権が設定されていないこと

住宅ローンによる抵当権以外の担保が、対象となる住宅に設定されていないことが必要です。

④ 保証会社の代位弁済から6か月を経過していないこと

住宅資金貸付債権が法定代位によって取得されたものである場合には、原則として住宅資金特別条項を利用することができません。

代表的な例としては、住宅ローンの滞納によって、住宅ローンの保証会社が代位弁済を行ったというケースです。

しかし、代位弁済から6か月を経過する前に個人再生手続開始の申立てをすれば、後述する住宅ローンの巻戻し制度を利用することによって、住宅資金特別条項を利用することができます。

2 住宅ローンの巻戻しについて

⑴ 住宅ローンの巻戻しとは

住宅資金特別条項を利用するためには、住宅資金貸付債権が法定代位によって取得されたものでないということが必要になります。

つまり、個人再生の申立て前に住宅ローンの滞納などがあり、住宅ローンの保証会社から代位弁済がなされている場合には、住宅資金特別条項を利用することができなくなります。

しかし、個人再生の手続を利用する方の多くが借金の返済に窮しており、滞納が生じていることが一般的です。

そのため、保証会社による代位弁済後は、一切住宅資金特別条項を利用することができなくなるとすると、住宅資金特別条項を利用することができるケースが非常に限定されたものになってしまいます。

これでは、債務者の自宅を維持して経済的な更生や自立を図ろうとした住宅資金特別条項の趣旨を十分に達成することができません。

そこで、代位弁済から6か月を経過する日までに再生手続開始の申立てがなされたときには、例外的に住宅資金特別条項を利用することができるとしたものが住宅ローンの巻戻し制度です。

⑵ 住宅ローンの巻戻しの効果

住宅ローンの巻戻しの要件を満たした住宅資金特別条項付きの再生計画が裁判所によって認可されると、保証会社による代位弁済はなかったものとして扱われます。

つまり、代位弁済をした保証会社は、再び保証人の地位に戻り、債権者には当初の住宅ローンの債権者となります。

このように、以前の状態に巻き戻されるという効果があることから、「住宅ローンの巻戻し」と呼ばれているのです。

住宅ローンの巻戻しが認められることによって、住宅資金特別条項を利用することができますので、債務者としては自宅を手放さずに済むという効果を受けることができます。

3 住宅ローンの巻戻しのやり方

⑴ 住宅ローンの巻戻し制度の利用条件

住宅ローンの巻戻し制度を利用するためには、以下の条件を満たす必要があります。

① 代位弁済をしたのが保証会社であること

住宅ローンの巻戻し制度を利用するためには、代位弁済をしたのが保証を業とする保証会社である必要があります。

保証会社ではない、例えば親族などによって代位弁済がなされた場合には、住宅ローンの巻戻し制度を利用することはできません。

なお、住宅ローンの巻戻し制度の利用にあたって、保証会社の同意を得る必要はありません。

住宅ローンの巻戻しによって、保証会社は元の保証人の地位に戻るだけですので、特に不利益はないからです。

② 保証会社の代位弁済から6か月を経過していないこと

住宅ローンの巻戻し制度を利用するためには、保証会社が保証債務全額の代位弁済を行った日から6か月を経過する日までに、個人再生手続開始の申し立てをする必要があります。

6か月の期限は延長が認められていませんので、1日でも経過してしまうと住宅ローンの巻戻し制度を利用することができなくなってしまいます。

そのため、保証会社が代位弁済をした日については、保証会社に確認するなどして正確な年月日を調べておく必要があります。

⑵ 住宅ローンの巻戻し制度の利用方法

住宅ローンの巻戻し制度を利用するにあたって、特別な申立ては必要ありません。

通常の個人再生手続開始の申立ての際に提出する再生計画案に、住宅ローンの巻戻し制度を利用する旨の記載をすればそれで足ります。

そして、債務者の住所地を管轄する地方裁判所に個人再生手続開始の申し立てをして、住宅ローンの巻戻しの要件を満たした住宅資金特別条項付きの再生計画が裁判所によって認可されることによって、住宅ローンの巻戻しの効果が生じます。

個人再生の申立てにあたっては、住宅ローンの巻戻し制度の利用条件を満たすことを証明するために、保証会社が保証債務を履行した日を明らかにする書面などを提出する必要があります。

4 まとめ

個人再生における住宅資金特別条項は、自宅を維持したまま借金の整理をすることができる非常に便利な方法です。

保証会社による代位弁済が生じた場合の住宅ローンの巻戻し制度は、住宅資金特別条項を利用するための例外的な制度ですので、巻戻し制度があるからと安心せずに、できる限り、住宅ローンの滞納が生じる前に弁護士に相談に行くようにしましょう。

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